シナノキの家は留守かな

 

    雪どけが進み、穴が開いた雪の底から水の流れる音が聞こえてくる。薄くなった雪の表面を踏み抜いて大変な目にあった経験があり、慎重になる。雪の表面にうっすら残ったエゾクロテンの真新しい足跡を見ると、自分も行けそうな気持ちになるから不思議だ。こんな時は腹ばいになり体重を分散しながら渡るとうまくいく。
 落とし穴が待ち受ける森の中を進み、エゾクロテンの家にたどり着く。あと何度来ることが出来るだろうかと思いながら訪れるシナノキの家。覗き込んで声をかけてもシーンとしている。家は数ヶ所あり時々変えながら住んでいるので、今日はこっちの家は留守だと思い、葡萄の蔓の家に行ってみようと離れかけた。
 その時、「ここだよ、ここだよ」とでも言うように、ウーウークルクルクルという声が聞こえた気がした。もう一度樹洞を覗き込み、いるなら返事しろーと声をかけたら、木に積もった雪の中からひょっこりと顔を出した。な~んだ。いるじゃん~。

 

 

2 Comments

  1. もう童話の世界ですよね~。
    思いっきり笑っちゃいました。

  2. 楽しんでもらって、うれしく思います。

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