春の指揮者

 

  山スキーより、小回りのきくかんじきのほうが歩きやすい。と思っていたら、日が差す場所では、ベタつき始めた雪がかんじきに貼り付いて高下駄の様相だ。それにしても今日はずいぶんエゾシカの足跡が多い。こちらの接近に気付いていたのだろうかか、真新しい足跡が逃げるように沢の急斜面を下っている。
 息が上がる登りに足を止めていると、沢の音が聞こえた。覗いてみると、沢の流れる心地よい響きの中、キタキツネが沢を眺めながら尾で指揮をとっているように見える。しぶきに叩かれたつららが歌う。「はーるよこい」のメロディーか――。

 

 

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